ステントグラフト

ステントグラフトは、人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けたもので、これを圧縮して細いカテーテルの中に収納して使用します。患者さんの脚の付け根を4~5cm切開してカテーテルを動脈内に挿入し、レントゲン透視装置下に動脈瘤のある部位まで運んだところで収納してあったステントグラフトを放出します。この方法ですと、胸部や腹部を切開する必要はありません。放出されたステントグラフトは、金属バネの力と患者さん自身の血圧によって広がって血管内壁に張り付き、自然に固定されます。この方法では、大動脈瘤は切除されず残っているわけですが、瘤はステントグラフトにより蓋をされることになり、瘤内の血流が無くなって次第に小さくなる傾向がみられます。また、たとえ瘤が縮小しなくても、拡大を防止できれば破裂の危険性がなくなります。このように、ステントグラフトによる治療では手術による切開部を小さくすることができ、患者さんの身体にかかる負担は極めて少なくなります。

当院におけるステントグラフト内挿術症例数の推移

当院でも2002年より一部の患者さまに対してステントグラフト留置術を行ってきました。従来このステントグラフトは保険医療として認められた製品がなかったため自作していましたが、最近になって厚労省がステントグラフトを医療機器として認可し、腹部大動脈用が2007年4月に実際に使用できるようになりました。胸部大動脈用のステントグラフトも2008年7月に厚生労働省の認可を得て健康保険が受けられるようになりました。現時点では認定施設 (当院は施設認定を受けています) に限定されて施行可能ですが、今後ますますこの治療法は普及、発展するものと考えられます。

ステントグラフト内挿術と人工血管置換術の違い
 
ステントグラフト内挿術
人工血管置換術
利点
全身麻酔や開腹、開胸手術の合併症のリスクが高い患者
(高齢者、腎不全、低心機能、再手術例)に適応
傷が小さい、術後の痛みが少ない
手術時間が短い、出血量が少ない、入院期間が短い
動脈瘤を確実に処理できる
長期成績が安定している
欠点
解剖学的な制約がある(動脈瘤の近くに重要な分枝があるなど)
長期成績が不明確
追加手術が必要になることがある
開腹や開胸が必要で、体に対する負担が大きい
手術時間が長く、出血量も多い
腹部大動脈瘤のステントグラフト治療

残念ながら、全ての大動脈瘤に対してステントグラフト治療は出来ません。動脈瘤が重要な分枝血管にかかっていないなど、ある一定の基準を満たした場合にのみ可能なのです。そこで、患者さんの大動脈瘤の部位を細かく計測して、ステントグラフト治療が可能かどうかチェックを行います。

血管造影
3D-CT
胸部大動脈瘤へのステントグラフト治療

胸部大動脈は曲がりが強く、頸動脈などの重要な血管が近くにあることから ステントグラフトのデザインが難しい部位です。特に脳へ行く血管に近い弓部大動脈瘤は、通常の直管型(ストレート)のステントグラフト単独では治療困難なことがほとんどです。このような場合、弓部分枝を人工血管でバイパスした後にステントグラフトを留置することで治療できます。

またもう一つの方法として、新しいステントグラフトである胸部大動脈開窓型ステントグラフトが開発されました。これは頸動脈等の大事な枝に血液が流れるよう、開窓してあるグラフトです。これによりバイパスなどの追加治療なしで胸部大動脈に留置することが可能となりました。

今後、大動脈瘤に対するステントグラフト治療がますます増加してゆくと言われています。患者さんの身体に優しい低侵襲治療であり、これまでは手術不可能と言われていた患者さんにも治療の可能性が出てきました。しかしステントグラフト治療不可能な大動脈瘤もあり、患者さんお一人ずつ詳細に検討する事が必要です。又、ステントグラフトの長期遠隔成績は不明であり、今後も注意深い経過観察が必要です。我々は今後も慎重に適応を検討し、一人でも多くの患者さんを治療したいと考えております。