冠動脈バイパス術とは
狭心症や心筋梗塞に対して、現在、カテーテルと呼ばれる管を使った治療(PTCA)や冠動脈バイパス手術が行われており、治療成績も向上しています。ところが、病気が進行した患者さんでは、血管が細いためカテーテル治療や冠動脈バイパス手術ができず、心臓発作を繰り返します。冠血管新生療法は、血管を新たに増殖させる血管新生因子(bFGFタンパク)を心臓の筋肉内に直接注射することで、今まで治療が難しかった細い血管の領域を救う最先端の手術法です。日本では、熊本大学でのみ行っている治療法で、現在まで17人の患者さんに行い良好な結果を得ています。
冠血管新生療法の実際

下の図・左側は、ある患者さんに行った手術の模式図です。従来の手術では、び慢性に狭窄がある血管や径が細い血管に対してはバイパスを吻合することが不可能で虚血領域が残りました。冠血管新生療法ではこの領域に、冠動脈バイパス手術と同時にbFGFを心筋内に注射します。実際の手術時の写真が下の図・右側です。細い注射針を使って、静脈などを傷つけないように、バイパスできない部分へbFGFを注射しています。bFGFの血管新生効果で他の枝からの側副血行が発達してきます。

冠血管新生療法の効果は?
効果の判定には、自覚症状の改善はもちろん、客観的な証拠が必要です。当科では、手術後にシンチグラフィー検査、冠動脈造影検査、超音波心臓検査、MRI検査で評価しています。シンチグラフィー検査では、血流が不足している場所を青く、十分な場所を赤く表示します。 手術前は青く表示されていた部分が、手術後は赤く変化しています。この変化した部分には、バイパスを行っておらず、血管新生因子の効果と考えられます。
 
冠動脈造影検査によっても、冠血管新生療法の効果を認めます

下に示した冠動脈造影所見は、手術前に血管が描出されなかった領域に、手術後は矢印で示したように閉塞した血管が発達した側副血行によって描出されています。

右に示した造影所見は、心筋内微細血管陰影(myocardial blush)と呼ばれるものです。円のなかにみられるように微細な血管を多数認めています。
血管増殖因子による血管新生の仕組み

血管新生因子bFGFは血管内皮細胞を刺激して、VEGFやbFGF、HGFなどのさまざまな血管新生因子を放出させます。投与された血管新生因子や血管内皮細胞より放出された血管新生因子は、血管壁や血液中に存在する血管内皮前駆細胞に作用し、枝となる血管を形成させます。この反応はもともと生体に存在し、虚血や腫瘍組織で認められます。