虚血性心疾患とは?
心臓は絶え間なく動き続けるために常に大量の酸素とエネルギー源を必要としています。心臓自体にも冠動脈という血管がはりめぐらされており、この血管を通じて必要な物質が心臓の筋肉(心筋)に届けられます。しかし、動脈硬化などで冠動脈に十分な血液が流れない状態になると、心臓はエネルギー不足に陥ります。この状態を虚血といい、心筋は数十分で壊死に陥り二度と元に戻ることはありません。虚血が一過性の場合が狭心症で、心筋が壊死した場合が心筋梗塞です。虚血性心疾患の主な原因は動脈硬化ですが、動脈硬化は年齢とともに進み元には戻らないと考えられています。動脈硬化を進行させる因子として、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満などが知られていますが、いずれも様々な病気の危険因子となります。心筋梗塞の場合は、冠動脈が完全に詰まることが原因です。多くは、冠動脈の中に血栓と呼ばれる血の塊ができるためと考えられますが、この背景には動脈硬化によって血管の内側の膜に異常が生じている状態が考えられています。高齢化、生活習慣の西洋化とともに虚血性心疾患患者は増加傾向にあります。この領域は循環器内科が行うカテーテル治療の発展が目覚しく、より体に負担の少ない治療法が開発されています。しかし、複雑な病変や重症例、また心臓弁膜症などの合併例に対して手術の有効性は確実であり、心拍動下冠動脈バイパス術などの技術革新で、今後もこの領域における外科治療の重要性は高まってくると考えられます。
虚血性心疾患の症状

狭心症と心筋梗塞では以下のような違いがあります。

 
狭心症
心筋梗塞
胸痛の特徴
“締め付けられるような”重苦しさ、圧迫感、痛み。
激しい痛みで、不安感、重症感があり冷汗や嘔吐などを伴う。
発作の持続時間
1~5分程度。長くても30分以内。
30分以上。数時間続くこともある。
ニトログリセリンの効果
多くの場合著効。
効果がない。

心筋梗塞では最悪の場合、発症とともに死にいたる可能性もあり、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。また、心筋梗塞後は様々な合併症を起こす可能性があります。

心筋梗塞の合併症
不整脈
心筋梗塞後はあらゆる不整脈が生じる可能性があり、実際に発症後2~3日の不整脈の出現率は90%以上に及びます。最も多いのは心室性期外収縮で、心室頻拍や心室細動などの致死性の不整脈に移行する危険が高いため注意が必要です。また、発作性上室性頻拍や心房細動、心房粗動などの頻脈性不整脈から、洞性徐脈、房室ブロック、脚ブロックなどの徐脈性不整脈までさまざまです。
ポンプ失調
心原性ショックと心不全を合わせた病態で、血圧低下、呼吸困難、乏尿などの症状が見られます。
心破裂
壊死した心筋はもろくなり、ちぎれることがあります。ちぎれた部位によって左室自由壁破裂と心室中隔穿孔、乳頭筋機能不全に分けられます。自由壁破裂では一挙に大量の血液が心臓の周り(心嚢)になだれ込み、心タンポナーデとなって突然死の原因となります。心室中隔穿孔では、左心室から右心室へ通じる穴ができ、急激に心不全に陥ります。
乳頭筋機能不全症候群
左心室内で僧帽弁の弁尖を引っ張っている乳頭筋が痛むと、僧帽弁閉鎖不全がおこり心不全に陥ります。
心室瘤
壊死した心筋が薄くなり外側に向けてとび出すものです。心臓の収縮に伴って正常とは逆に外側に膨らむ奇異性運動を示すのが特徴で、心不全や不整脈を伴うことがあります。
虚血性心疾患の治療

虚血性心疾患に対しては、疾患の重症度、患者さんの背景に応じて、循環器内科と心臓血管外科でカンファレンスを行い、治療方針を決定しています。心筋虚血に対する手術として、冠動脈バイパス術、血管新生療法を行っています。

カテーテル治療と冠動脈バイパス術の比較

 
利点
欠点
カテーテル治療
低侵襲
在院日数が短い
初期コストが低い
繰り返しが可能
症状改善に有効
再狭窄
不完全血行再建
低心機能に有効性低い
糖尿病に有効性低い
解剖学的制約がある
冠動脈バイパス術
症状改善に有効
生存率向上に有効
完全血行再建
解剖学的制約が少ない
コストが高い
合併症