動脈瘤にはどんな治療があるの?
動脈瘤の治療は基本的に人工血管置換してしまうことです。つまり、人工血管と動脈瘤上下の血管を縫いつけて動脈瘤を無くすと同時に、新たに血液が通れるようにします。現在使われている人工血管は耐久性に優れ、体になじみやすいものになっています。手術方法は胸部と腹部で違いがあるので、そのお話を少ししたいと思います。

まず腹部大動脈瘤では、お腹を切開して動脈瘤まで行き着き、血液を固まりにくくする薬(ヘパリン)を使った後に瘤の上下で血管を遮断します。遮断中に人工血管と縫いつけるわけですが、皆さんは遮断中下流には血液が流れないので大丈夫だろうかと思われるでしょう。実は腎臓に向かう動脈を出した後の腹部大動脈では全く大丈夫なのです。もちろん長時間遮断していれば障害は避けられませんが、1時間やそこらの遮断では問題ありません。しかし、腎動脈より上の大動脈を遮断する場合は細心の注意が必要で、状況に応じて人工心肺という大がかりな装置を使うこともあります。

一方、胸部大動脈瘤では人工心肺がほぼ必須となります。心臓に近い大動脈(上行大動脈)では心臓を止めて人工血管置換を行いますが、脳に行く血管を出している大動脈(弓部大動脈)ではそれに加えて体温を20℃から25℃くらいまで下げ、上半身だけ血液を流しつつ下半身の循環を止めて人工血管置換を行います。弓部大動脈以降の下行大動脈では、心臓は動かしたまま下半身だけ血液を流しつつ人工血管置換を行います。

人工血管置換術は確立された治療法ではありますが、ある程度の体の負担があるため高齢者や他に重篤な病気を持っている患者さんでは手術を乗り切れない場合があります。そのような患者さんに対しては体への負担を軽減させるステントグラフト内挿術が最近注目されるようになって来ています。ステントグラフト内挿術は動脈瘤を血管の内側から直そうという治療法で、動脈瘤の中に人工血管を挿入・固定します。人工血管はステントと呼ばれる金属と一体化されており、ステントが開くことで血管内に固定される仕組みになっています。

血液は人工血管の内側を流れますが、動脈瘤は人工血管で仕切られて血液が流れなくなるので徐々に血栓で固まってしまいます。この治療法は腹部大動脈瘤や胸部下行大動脈瘤では広く行われ成績も良好なのですが、重要な動脈分枝近くでは技術的にも難しく、また、その長期成績も今後の課題といえます。その他動脈瘤の中にコイルをたくさん詰め込んで治療する方法も、動脈瘤の部位や形によっては可能であり侵襲の少ない治療法です。
熊本大学でやってる治療法は?
熊本大学心臓血管外科では、まず患者さんの全身状態に合わせて治療法を検討します。検討した上で最適な治療法を患者さんやご家族に説明するわけですが、治療法の選択枝も合わせてお示します。現実には標準的な人工血管置換術を行うことが多いのですが、手術の危険が高い患者さんには放射線科と共同で血管内治療法を行っています。また、当科では従来の人工血管置換術に血管内治療法を取り入れた手術も行っており、弓部大動脈から下行大動脈にかけての動脈瘤症例に適応しています。